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二年生の深密度チェック
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「さて、皆に集まって貰ったのは他でもない。
 今月の調査の結果を聞いて貰う為なのだが・・」
三年生だけが集められた部活前、テニス部部室の中央に設置されたホワイトボードの前に立つ『自他共に認めるデータマン乾 貞治』が口を開いた。
毎月恒例の行事に、好き好きにパイプ椅子を並べて座りながら、乾の次の言葉を待つ部員誰も異を唱える事は無い。
それ程、乾のデータは完璧なのだ。
「それで、今月は何を調べたの?」
その乾の言葉に最初に口を開いたのは、嫌がらせのように菊丸の隣に椅子を並べ座り、普段通りの人好きしそうなニッコリ笑顔を湛えた『天才不二 周助』だった。
「そう言えば、お題聞いて無いにゃあ・・・」
隣に座る菊丸も、こくんと頷いてみせる。
「今月はダブルス強化月間として・・」
途中で一旦言葉を切り、乾はその場に居る全員を見渡した。
「桃城と海堂は本当に仲が悪いのか、を調べた」
「・・・・」(大石)
「・・」(菊丸)
「・・・・・・・」(不二)
「・・・・」(河村)
部長を除く、全員が呆れたような顔をして乾を見る。
そんな部員の視線すら表情の読めない眼鏡で黙殺して、乾は言葉を続ける。
「今回は二年生という事もあって、二年生中心に情報を集めてみた。
 これがダブルスの参考になる事を祈るよ」
そう言って手に持っていたプリントを端に座る大石に渡し、乾はさっさとホワイトボードにデータを書き出している。
「・・・乾、ちょっと良いかな?」
プリントに目を通したのだろう不二が、乾の背中に声をかける。
「何だ、不二?」
後ろを振り向く事無く、乾は言葉を促した。不二も解かっているのでその事には何も触れず自分の感想を口にする。
「君、本当にこんなデータがダブルスに役に立つと思ってるの?」
不二の言葉を聞いた途端、乾の手が止まるのと部室内の空気が2℃程下がるのを不二以外全員が感じた。
そしてゆっくりと振り返りながら、怒気にも似た雰囲気を醸し出しながら不二を真正面から捕らえる。
「不二は俺のデータに不服だと?」
声は普段のソレとなんら変わらないのに、怒っているのがはっきりと解かる。だが、不二は然程気にしない様子で自分の言いたい事を口にする。
「誰がそんな事を言ってるのさ。
 僕が言いたいのは、何でこんな今更な事をいちいちいちいち僕が聞かなきゃいけないのか、って話。
 誰に聞いたって答えは解かってるんだ、くだらない事に時間を割く気は・・・」
「不二」
不二の言葉を止めるように、部長は口を開いた。だが、そんな事で止まる様な不二様ではない。
「手塚は黙ってそこに居る猫とでもじゃれてろ。
 あ、そっか、隣に座ってないからそれも出来なくて怒ってるのか。
 でもそんな事僕には関係無いよ」
次に部屋の温度を下げたのは、手塚だった。
これ以上下がったら、タカさん大丈夫かな?なんて優しい大石副部長が思ったかどうかは誰も知らない。
そんな心配?を他所に、不二のテンションは上がりっ放しだが、そんな不二を止められるのは最愛の弟、不二 裕太か不二の言葉を無視してでも話を進められる奴くらいだ。
もっとも、前者は今聖ルドルフで楽しくテニスの練習に励んでいるだろうし、後者は絶好調な不二の隣で眠そうに欠伸を噛み殺している。
「ねぇ、手塚ぁ。テニスやろうよぉ、俺眠くなってきちゃったにゃ〜」
「・・・・・不二」
不二の毒舌にも微塵も怯まないで黙っていた乾が、ようやく口を開いた。
「何だい?」
「このデータは二年生が中心だと言った筈だ。ソレは他校生にも当て嵌まる。
 黙って聞いて貰えないか?」
その言葉は、不二を止めるには十分だった。
途端に大人しくなった不二は、一つだけ空いている椅子に座ると満面の笑みを湛えた笑顔で言い放った。
「さっさと初めようよ、二年生来ちゃうよ」
そして十数分の回り道の果て、ようやく本題に入ることが出来たのだが、二年生が来る前に全てが終わるだろうか、なんて心配した三年生は一人も居なかったのだが。



二年:A井の証言(乾の秘密ノートから抜粋)

昼飯を買いに購買部へ向かう途中、下から煩い声がした。
階段を途中まで降りた所で足を止めて様子を伺うと、声は保健室から出てくる桃城だと見当が付いた。自分はそれ程桃城が得意な訳では無い。寧ろ苦手だと言っても良い。
――コイツに関るのは止そう。
瞬時にそう思って、階段を上り別のルートへと引き返そうとした途端、聞き慣れた名前が桃城の口から出て驚いた。
「そう怒るなよ、海堂」
――海堂
確かに今そう聞こえた。
桃城と仲が悪いと言っても良い。部活中の奴等に聞いて回っても仲が良いと言う奴は居ないだろうと確信にも似た感想を持つほど仲が悪い筈の相手の名前。ソレが今桃城の口から出たのだ。何かの間違いだろう、そう思った。
「悪かったって、ゴメン海堂」
――ゴメン海堂
今確かに桃城はそう言った。
何故桃城が海堂に謝るのか、そして何故桃城と海堂は保健室に居たのか。
好奇心が足を止め、身を隠させ、様子を窺わせた。
幸な事に、桃城は一旦保健室の中に戻ってしまい、自分の存在に気付いていない。
中から小さな声で何かを話している様な声がする。
残念な事に、彼には何を言っているのかまでは届かない程の音量。
――中で何してるんだ?
そう思った途端、見てはいけない物を見た。
海堂の腕を引っ張りながら桃城が出て来たのだ。
だが海堂も素直に従う訳も無く、何事か異を唱えて腕から逃れようとしている。
しかしそんな海堂に桃城は怒る気配も無い。寧ろ楽しがっていると言っても過言ではない表情。
その姿は、言う事を聞かない恋人の我儘を優しく窘めるソレと酷似している、そんな形容詞が頭を過ぎっては消えた。
そんな事が頭を過ぎった瞬間、桃城も無理に言う事を聞かせる風で無くそのまま海堂の力に従い中に逆戻りしようとする姿を見た。
本来なら力で桃城に海堂が敵う訳が無い。嫌なら振り払う事も可能なのに。
すると、途中で海堂の動きが止まり・・・

影が、二人が少しだけ重なった。気がした。

ほんの一瞬だけだったから、目の錯覚かもしれない。そう思う事で必死に叫び、逃げ出しそうになる声を我慢した。
「・・桃城っ!!」
海堂の怒声が聞こえた。
――怒ってる。
海堂が怒っている事に安堵を憶えたのはきっと初めてだ。だけど、怒ったという事はやっぱり今のは見間違いじゃなくて・・・
そこまで想像して、プツリと音がした。そして頭の中が真っ白になる。

その後の事は何も覚えていない。


備考:
その後の彼に、桃城に呼び出された形跡は無い。
従って、彼が(不運にも)覗いてしまった事はばれてはいないようだ。


「へぇ・・こりゃ大変」
「学校内でそんな不埒な・・後で校庭二十週だな」
「やるねぇ〜桃城と海堂もvねぇ〜俺等もやろぉよぉ手塚ぁ」
「・・・・・・・」(固まってしまい何も言えない河村)
各自思い思いの感想を口にする中、不二だけが無言で笑っている。
だが、皆解かっているのだ。あの笑顔は怒っている、と。
だから誰も何も言わずに、乾の次の報告を待った。
乾も瞬時にソレを悟り、自分の手の中にあるノートに視線を逸らす。
「・・・さぁ、次の報告だが・・」


二年:Hやしの証言(乾の秘密ノートから抜粋)

次の時間は体育、外でマラソンなのにだ。
桃城が居ない。
本来なら桃城が体育をサボる、と言う事は無い。体を動かす事が大好きな桃城は、苦手な古文や歴史の授業以外滅多にサボる事が無いのだ。まぁ、絶対は無いが。
――何処行っちまったんだよ?
同じテニス部、同じクラスの好で荒井よりは仲の良い彼は、間も無く来る始業のベルまでに桃城を見つけようと校内を走り回っていた。
別に好意だけでの行動でも無いのだ。
次の体育に隣のクラスに負けるのが嫌なのだ。前の授業で桃城のムラッ気が招じて完敗を喫しているのも原因の一つだろう。
更衣室にも居ない。
保健室、屋上、三年のクラスまで探しても当の桃城は見つからない。
ココまで来ると半分以上意地になってきていたのだろう、何があっても見つけてみせる。心の中で固い決意を結ぶ。
ふと、そんな彼の頭の中に一つの場所が思い起こされた。そこは一定の時間帯でなければ誰も近寄らない場所。
――テニス部の部室か?
他の場所を探すにはもう時間が無い。意を決して部室へと走った。

――誰も居ない、よな?
何となく部活時間以外に近付くのは気が引ける。そんな事を感じながら何故だか解からないが足音を忍ばせそっと部室に近付くと中から声がした。
ソレは桃城の声。
――やっぱりココでサボってたんだ・・
見つけられた嬉しさと、これで隣のクラスに負けずに済むと言う気持ちが彼を焦らせたのだろう、少し気分が良くなった彼は部室に入る為の扉に手をかけたが、
「・・そろそろ授業始まるぞ・・」
中から聞こえた声に動きが止まる。
海堂だ。
「解かってるよ。でも、もう少しこうしててもいいだろ・・?」
楽しそうな桃城の声に、海堂は黙る。そうすると、中でどちらかが動いたのだろう、布が擦れる様な音がして何かが倒れた。
その音に、妙に心臓が跳ねた。
「・・桃城!お前、いい加減に、し・・」
海堂の慌てた様な声が、途中で途切れた。
部室には不似合いな音がする。
中で行われている行為が何であるか、察しは付くが信じ難い。耳を塞ぎ、走って逃げようとした途端、扉が勢い良く開いた。
「何してんだよ」
桃城だ。
部室から出て来たのは桃城だったのだ。
桃城の言葉は、酷く普通だ。ただ、声が尋常じゃないくらい怒っている。
ジャリ、と言う土を踏む音がゆっくりと近付く。
「見たのか?」
自分の直ぐ前で止まった音に、首を横に振る。自分は何も見ていない。必死にソレを体現する。
「・・・・・・喋ったら」
桃城がしゃがみ、目線を合わせて来た。
顔が笑ってる。
ただ。
その目は今まで見たことが無い位危険な色をしていた。
「殺す」
トスッと左胸、心臓の上を人差し指で刺す。
音がしそうな程軋む首が、目がゆっくりと自分を刺した指を追い、立ち上がる桃城を目で追った。
本気だ。
桃城は本気なのだ。
それ以上その場に居たら、本当に殺される気がして、走って逃げた。
その後の彼は、授業もその日の部活も、身にならなかったが。


備考:
まだ生きてる。


「物騒だなぁ・・・」
「あの日はそんな事があったのか・・」
「桃怖〜い」
「・・・・・・・・・・・・・」
「・・・ねぇ乾」
最後に口を開いたのは不二だ。
不思議そうに不二を見る菊丸の視線を綺麗に無視して、不二は乾に訊ねた。
「他校のデータはまだ?」
「・・・・・・・・・・・・い、今からだ」
たっぷりの沈黙の後、乾は何とか言葉を搾り出した。
本当なら後数名青学内の二年を、と考えていたのだが自分の命と天秤に掛ければやはり命の方が惜しい。
せっかくのデータなのに。彼がそう思ったかどうかは我々の預かり知らぬ所だった。
「他校生からのデータなんだが・・」



不動峰中学生二年:K尾とI武の証言(乾の秘密ノートから抜粋)


その日は珍しく、二人で行動した。
ソレもそのはず、隣でアクセを見ている親友が部長に渡すプレゼントを買う為なのだ。
真剣な表情でシルバーのリングを見る友人を眺めながら欠伸を飲み込んだ。
――何で俺が・・
そう心の中で呟いて、諦めにも似た溜息を吐く。こんな所海堂に見られたら、誤解されちまう・・・そんな事を考えていた時だった。
「・・・・あ、海堂だ」
隣がボソリと呟いた。
「え、何処?!」
きょろきょろと周りを見渡すと、道路を挟んで向こう側に目的の少年を見つける。
さらさらの黒髪を風に無造作に遊ばせながら壁に凭れて、何処か寂しそうな雰囲気を視線に乗せ立つ姿は、間違いなく意中の人。普段なら絶対着ない様なラフな服装をしていても、見分ける事くらい造作も無い。
「海堂♪」
素早いフットワークを活かし、道路を渡る。
目の前に来て顔を覗き込むと、驚いた様な目をしていた。まさかこんな所で遭うとは、と言った所だろう。
だがそんな表情は直ぐに消え、鋭い目付きが戻る。
「・・・何か用か?」
低く呟くそれは、侵入者を拒む威嚇。誰よりも脆い自分を隠す唯一の手段。
「見つけたから・・さ。邪魔だった?」
にかっと音がする程の笑顔。この笑顔に海堂は弱い。
困った様に眉根を寄せ、周りを見る。探しているのだろう、海堂の王子様を。
「何だよ、今日は桃城付きかよ?
 ・・にしては桃城居ねぇなぁ。
 危ねぇなぁ海堂一人にしとくなんて、何考えてんだよアイツ?」
「!!」
――あ!海堂露骨に表情変わった。
ギロリと睨まれる。だけどその目の中に見え隠れする不安の所為で効果は薄い。
「んな怖い顔すんなよ。折角の美人が台無しだって♪」
言いながらそっと頬に触れようとした途端、
「海堂!!」
王子様の到着だ。
人込みを掻き分け走り寄る、二人の間に割って入ってから息を整えている。息が上がってるのは、走って来た所為だろう。それ程慌てていたと言う事の現れだ。
「桃城」
ボソリと海堂が名前を呟く。桃城の背中に隠れる様に立つ海堂の表情は読めないが、声音から想像が付く。
ソレは安心。
「ちぇ、桃城来ちまった」
そう呟いて桃城に視線を投げる。桃城も視線を合わせてくるから、自然と絡まる目線が火花を散らして見えるのは気のせいでは無いのだろう。
「残念だったな、コイツは俺のだ」
笑っているはずの顔は、敵に対して見せるソレと何等変わらず明るい口調が却って薄ら寒い程。
「桃城」
知らず臨戦体勢に入っていた桃城に、海堂が声をかけた。ソレはどちらかの為なのか、それとも自分の為か。
だが桃城も気にせず海堂の方に視線を投げると、「遅れてゴメン」と真っ先に誤る。
その言葉に、一瞬驚いた顔をしたが直に消して鋭い目付きで桃城を睨む。
「時間厳守だろう、貴様」
「ゴメンって、悪かったよ。もう遅れねぇよ、約束する。絶対!」
海堂が、ふうと一回大きく息を吐いた。
その隙を逃さず、桃城は海堂の肩を掴み強引に引っ張る。
「あ!!」
「!!」
「じゃーな、俺達これから大事なヨージだからよ。お前みたいに暇じゃないんだ」
大き目の手をヒラヒラさせながら、桃城は無理矢理海堂を引っ張って人込に消えていった。
取り残された少年は、ただ呆然と二人の背中を見ていた。


備考:
遅れた理由は途中困っている老人を見かけたからのようだ。


「・・・・・・・・・・・・で?」
たっぷりの沈黙と共に、不二の機嫌が最悪になっていくのが解かる。
隣に座っていた良く言えば天真爛漫な菊丸でさえ、椅子ごと1m下がった。それに巻き込まれた形で大石が壁にぶつかったが、無傷だったようだ。
不二の反対隣に座っていたはずの河村は机を挟んで向こう側まで逃げている。
部長の手塚はと言うと、大きく下がった為に重心を崩した菊丸を確りと腕の中に抱き留め三歩下がっていた。
「・・・不二、次がルドルフのデータな・・」
乾の声は最後まで続く事は無かった。
ガチャリ
「ちーす」
「おはようございます」
扉の開く音と共に二年生が入って来たのだ。
「・・・あれ、どうしたんスか先輩達?」
そして二年生に続くように一年生までも。
今入って来た三人に、今までの事の成り行きなんか解かる筈も無い。ただ、不二が異様に機嫌が悪いのは解かる。
「・・・・今日の会議はこれまでだ」
手塚が眉間の皺を五割増にして口を開いた。
「そ、そうだな。二年生達も来た事だし・・」
最良の案だと言わんばかりに大石までもが賛同してきたが、その行為は火に油を注ぐ行為に等しかった。
「待ってよ。まだ裕太の話を聞いて無い」
背中に黒いナニかを背負いながら、不二はにこりと笑いながら乾を見た。
視線を投げられた乾の方は、顔を引き攣らせて手塚を見た。
手塚は溜息を吐いて二年生を見ると、見られた二年生は訳が解からずお互いを見た。
その光景を黙って傍観していた一年は、如何有ってもテニスがしたいらしい。
「先輩達、テニスしないんスか?」
傍若無人な一年の言葉が空しく部室内に響いた。




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言い訳
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まずは、1300HITおめでとうございますvまさきさん!!
そして、こんなヘボい桃×海(と言うのもおこがましい)SSでごめんなさい〜!!
とにかくみんなのお話を書いて…と思っていたらただ賑やかなだけの話になってしまいました(涙)……でも、楽しかったです★(←オイ)
………感想とかお有りでしたら、どうぞ宜しくデス☆(オイ)
2001.11.19




軽太さま、ありがとうございました!!
桃海〜〜〜vv
桃の、「・・・・・・喋ったら」「殺す」 が格好良すぎです〜〜(><)うきゃあぁ〜〜〜ッッ!!
本当にありがとうございました!


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